平均寿命世界一のカラクリと、がん大国の理由

そろそろ、日本の平均寿命が発表される時期らしい。平均寿命は年齢別の死亡率の情報、いわゆる生命表から計算される。生命表には完全生命表と簡易生命表があり、前者は5年に一度の国勢調査に基づくもので、毎年発表される後者は、毎年10月1日の人口推計と、死亡の概数が用いられている。

参照リンク

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/21th/dl/21th_01.pdf

平均寿命とは、0歳児の平均余命であるが、平均余命の定義はここ

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life10/sankou01.html

に記載されている。平均寿命は、0歳児の余命が生命表の生存率に従うと仮定した場合の余命の期待値(平均値)と解釈でき、また、年齢別の死亡率さえ決まれば求められるので、年齢別の死亡状況を要約した指標になっている。
期待値は母集団における平均値だから、言葉としては平均寿命という言い方は間違っていないが、平均という言葉のせいで、現在生きている人たちの生存期間(寿命)の期待値と思われがちである。平均寿命は、本来は死ににくさ、死にやすさの指標の一つであり、現在生きている人の寿命の目安ではない。自分の余命の目安ならば、まだ、該当年齢の余命の期待値(平均値)をみるほうがよい。たとえば、平成22年の国勢調査に基づく、女性の完全生命表

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/21th/dl/21th_04.pdf

によれば、平均寿命は86.3歳だが、86歳の平均余命は7.56年である。この解釈は、すくなくとも、86歳以降の死亡率が現状維持なら、86歳の人の余命の期待値(つまり平均)は7.56年ということである。平均寿命が86歳なのに、86歳の平均余命が7.56というのは奇怪な感じがするが、そのカラクリはすでに述べた。平均という用語が独り歩きして、様々な誤解が生じている感がある。

平均という言葉にこだわるなら、「平均寿命」より、前年の死亡者の死亡時年齢の平均値(平均死亡年齢)のほうがしっくりくるかもしれない。しかし、平均死亡年齢は、年齢構成に依存してしまうため、死ににくさ、死にやすさの指標としては不適切である。少子化が進行している老いた集団では、おのずと平均死亡年齢は伸びていくし、逆に、どんどん子供が生まれているような、若い集団であれば、平均死亡年齢は下がっていく。平均寿命であれば、老いた集団であろうが若い集団であろうが、死亡の状況を同じ基準で評価することができる。なお、日本は少子化が進んでいるため、平均死亡年齢もかなり高いだろいうと推測される。

http://www.stat.go.jp/data/nihon/02.htm

の2-23のエクセルの表に、年齢階級別の死亡数があるが、死亡者数のピークは、男性で75歳代から80歳代、女性では85歳代から90歳代になっているように見える。


さて、日本は平均寿命が世界屈指なのに、世界屈指のがん大国という、矛盾と思われるような状況にある。注意すべきは、高齢者は非高齢者よりがんになりやすいので、高齢者の割合が大きいほど、がん死亡率は高くなることだ。従って、がんによる死にやすさを比較するためには、がん死亡率は不適切な指標である。年齢ごとのがん死亡率を見るのが一番よいが、平均寿命のような要約した情報があると便利である。そこで、年齢ごとのがん死亡率を標準の年齢別人口(日本では昭和60年のモデル人口)にあてはめて、死亡率を出すことが行われる。これを年齢調整がん死亡率というが、これが増加していることは、年齢ごとのがん死亡率が平均的に増加していることを意味し、減少することは、年齢ごとのがん死亡率が平均的に減少していることを意味する(特定の年齢でがん死亡率が減少していても、他の年齢で増加していれば、年齢調整がん死亡率が増加することもあるので、平均的という言葉を使った)。日本の年齢調整がん死亡率は、緩やかであるが年々減少しており、がん死亡率が急激に上昇しているのは、高齢化の進行が主な原因であることがわかる。国別で見ると

http://memorva.jp/ranking/unfpa/who_2012_population_15_60.php

に、WHO加盟国の2010年の高齢者(60歳以上)の割合と、子供(15歳以下)の割合のランキングが載っており、日本は高齢者の割合がナンバーワンで、子供の割合はビリであり、非常な高齢化の進んだ集団であることがわかる。ここまで老化した集団は、やがて消滅に向かうだろう。次々と人が逃げ出し、国が破たんした末に、医療も福祉もなくなった日本。それでも、平均死亡年齢だけは高い。それは、超高齢者だけが取り残され、次々と亡くなっているからだ・・・ということにならないことを願うばかりだ。